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 さて、捨太郎の着衣問題はといえば、おっかなびっくり脱衣所に移ったところ解決済みであった。洗濯している間、女中の誰かがそっと持ってきてくれたのだろう、着物が一枚畳んで置かれている。  ありがたく借用した。全くぴったりというわけではないが、裾も袖も問題ない丈だ。まさかこの短い時間で、捨太郎のために縫い直されたわけでもあるまいし、魁のではないのだろう。とすれば、他にも同じ年頃の子供が屋敷に住んでいるということになるだろうか……。  洗い終えて絞ったものを(たらい)に入れる。それを抱えつつ、一歩だけ廊下に出てきょろきょろした。すると案の定、どこからともなく女中が現れ歩み寄ってくる。  捨太郎は、実家は貧乏の十二人暮らしであったし、今の家にしても、特段豊かというわけではない。だから女中というものに接したことがない。化粧こそしていないが妙齢の、ほっそりとした綺麗な人にどういう顔を向けたらいいのかわからない。  とはいえ、お呼ばれの中学生ひとりの表情など、別に何の影響力も持たないとも言えた。実際、彼女はただ淡々と盥を受け取るのみだった。  そして一礼して去っていく。どこかに干しておいてくれるのだろう。  そそくさとした印象こそ与えないが、不思議と素早いその足並みが、廊下の曲がり角に消えてしまうのを黙って見送ったあと――捨太郎は「あっ」と思った。 「ああっ……あの、すみません! お尋ねしたいことが! 彼の――蜂矢君の部屋というのは、どちらでしょうか」  そこまで来いと言われはしたが、まだ一度も通されていないのだから知る由もない。  鬼瓦のお屋敷――。今のところ恐ろしいことは何もないものの、それでも、捨太郎風情が無闇にうろうろするわけにもいかないだろう。
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