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「―松山さんから頂いた京都の嵯峨侯爵家の縁談、私はいいと思うんだが」
「…お父さん、またその話ですか」
あからさまに嫌そうな顔をした息子をたしなめるように、父親である浩平は膝を詰めた。
「―前々から思っていたんだが、私だっていつまでも若くない。お前にはきちんとした女性と所帯を持ってもらいたいと思っている。相手の女性は家柄も申し分ないし、お前だって不足はないはずだ」
「…お断りします。松山さんには申し訳ありませんが、この話はなかったことにしてください」
鶴原はきっぱりとそう告げると、手前の膳に乗っている八寸の皿から慈姑を口にした。
浩平は端整な顔立ちを歪めると、やおら息子に向き直った。
「―見合いを蹴ってでも一緒になりたい相手がいるのか?だから、この話を断りたい、とでも?」
鶴原は思わず目の前にいる父親を見つめた。
「何年お前の父親をしていると思っている?舐めてもらっては困る」
鶴原浩平は、そう言って杯に注がれた清酒を飲み干した。
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