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―『翠明堂』初の自社ブランドとなる香水、【Shalla】が東京の百貨店に納品されたのは二週間前。
酒の角瓶を思わせる四角い瓶に金箔で硝子瓶の表面に流れるような筆記体で商品名のロゴを描いた意匠は瞬く間に上流階級の女性達の評判を呼び、販売してわずか数日で予約は取れなくなった。
「―『翠明堂』の新しい香水、すごく評判いいんですってね!横浜の百貨店じゃ手に入らないからって、東京にまで出てくるご婦人方も大勢いるらしいわよ?」
早速、香水を試しながらそう話す千代子の話を少しだけ誇らしげに聞く。テーブルクロスにナツツバキの爽やかな甘い香りが広がる。
*
「『しゃら』?綺麗な名前ですね。鈴の音みたいだし、それにすごくいい香り」
販売して間もない頃、廉二さんから綺麗に梱包された香水瓶の箱を受け取るとそう呟いた。
硝子で出来た香水瓶の蓋を開けると、茉莉花の花に似た爽やかな香りが漂ってくる。
「…ナツツバキの別名でね。さんずいに”少”の字、それに羅で【沙羅】。咲き終わった直後の花から採った種から絞ったものを使ったんだ」
「…そんな高価なもの、頂いていいんですか?」
思わずそう尋ねると、彼はふっと笑った。
「当然だろ。これを作るのに、君も貢献してくれたし、何より君はもううちの家族の一員だしな」
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