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「結局、どこも全部だめか…」
私―こと川嶋椿は紙に書いたカフェーの名前全てに『✖』を付ける。
来るときには晴れていた空は今は蓋をしたような雲に覆われている。
大正デモクラシー直後の物価高騰のせいか、あちこちでストライキのデモを見かけ、それはここ銀座でも同じのようだった。
好景気だなんて騒がれているけれど、正直あまり実感は沸かない。
(…考えてみれば、世の中そんなに簡単に仕事なんて見つかるわけない、よね)
『―それに16だったら無理に女給なんかしなくても嫁にでも行けばいいでしょ』
「…出来るんだったら、苦労しなかったわよ」
支配人にかけられた心無い言葉に、思わず悪態をついた。
―一ヶ月前、私の人生は一変した。
「椿、金がなくなったから女学校辞めてくれ」
「―は?何言ってるの、お父様」
春休みになったある日、女学校から家に帰ってきた時、家の中はごちゃごちゃだった。
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