1.最悪の日

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父が事業に失敗して無一文になった。ーいや、正確には騙されたのだけれど。 久しぶりに再会した大学時代の友人と一緒に出資して会社を興したものの、その友人は会社のお金を全額持ち逃げして行方知れずとなった。 残ったのは多額の借金。 会社の土地は人手に渡り、家財は差し押さえにあい、日々の生活費にも事欠く有り様だった。 運が悪かったんだ、と言われたけど冗談じゃない。 それまで通っていた横浜の女学校は退学する羽目になり、酒浸りになった父に変わって仕事を探す事になったのだ。 「…どうしよう。全部だめだったなんて、恥ずかしくて言えない…」 帰りの電車賃を数えながら、苦い思いが込み上げてくる。 このお金だって、女学生時代のお小遣いの残りだ。有楽町から横浜までの電車賃を払ってしまえば、綺麗さっぱりなくなる。 これからどうなるんだろう。そう思っていると、目の前を袂の長い縮緬の着物に袴姿の、私と同じくらいの年格好の女学生が行李を手に通り過ぎていった。 それを見たとたん、抑えていた思いが蘇ってくる。 私も本当なら、ああやって。 ―本当は勉強も続けたかったし、成績だって悪い方じゃなかったのに。 惨めさと悲しさが綯交ぜになって、通り過ぎていく女学生を見つめていると、不意に肩に人がぶつかってきた。 「おい、ボーッと突っ立ってんじゃねえよ!!」 「す、すみません!!」 慌てて謝った後、私は気付かなかった。その男の人が去り際に僅かに口角を上げたことに。 「…フン。近頃のお嬢ちゃんはちょろいもんだぜ」
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