可憐な少女は無邪気に笑う

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 ――だけど、そんな僕の懸念に対し、 「――そんな心配は杞憂よ、藍良(あいら)さん。確かに、お父様が貴方を雇用したきっかけは、貴方が私の婚約者――今は旦那様だけど――婚約者たる柑慈(こうじ)さんの身内だからでしょう。だけど、それはあくまできっかけ――その後は、貴方の教師としての適性をお父様自身が判断した上で、今でも貴方に家庭教師(このやくめ)を任せているの。加えて、私の方からも藍良さんが良いとお父様に伝えていますし。  それに、教師としての適性(それ)に関してはきっと柑慈さんよりも貴方の方が優れているわ。そもそも婚約者たる彼を家庭教師にするわけにはいかないけれど――それ以前に、あの人はその卓絶した才能故に、教える側にはあまり向いていないのよ」 「……なるほど」  そう、柔らかな微笑を浮かべ話す彼女に対し躊躇(ためら)いを覚えつつ頷く僕。前半の方――僕にそれほどの適性があるのかどうかは正直懐疑的ではあるけど……後半の方――兄さんが教える側に向いていないというのは少し腑に落ちる部分がある。兄さんの教え方が悪い――というわけではなく、そもそも天才たる兄さんは、相手がどうして分からないのかが分からないのだ。随分と前、僕に整数の問題を教えてくれようとしてた時、僕が分からない理由が分からなくて申し訳なさそうにしていたっけ。あの時は、単に僕の理解力が壊滅的なだけだと思っていたけど、どうやらお嬢様との間にも似たようなことがあったらしい。そこへいくと、凡人たる僕は人の理解できないところもある程度分かるからそういう意味では教える側に向いているのかも……うん、なんか自分で言っててちょっと虚しい―― 「ところで藍良さん――そろそろ、本題に入らないかしら?」
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