可憐な少女は無邪気に笑う

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「……あの、お嬢様。一つお伺いしても宜しいででしょうか?」 「ええ、もちろんよ藍良(あいら)さん」 「……ありがとうございます。それでは――ひょっとして、お嬢様は柑慈(こうじ)兄さんに何か不満がおありだったりしますか?」 「いえ、不満なんてないわ。知っての通り、柑慈さんはとても知的で優しい人よ。それに、いつも私を大切にしてくれる。彼といると、本当に安心するの。樹木の枝葉からそっと差し込む光のような、柔らかな安心感に包まれるの。そして、そんな彼と共に穏やかな日々を過ごすことで――よりいっそう、貴方という存在が輝きを放つの。藍良さん」 「……そう、ですか」  ――そう、きっとこれが、柑慈(こうじ)兄さんとの婚約を彼女が受け入れた理由。兄さんと共にいることで最高の安心――即ち、最高の退屈を手に入れたんだ。退屈というのは、いつだって安心の中でしか生まれない。そして、そうまでして彼女が欲したのは―― 「……そんなに、欲しいのでしょうか? ――最高の刺激が」 「ふふっ」    逡巡を覚えつつ問い掛けると、可愛らしく笑顔を見せる彼女。いつも自分を大切にしてくれる、素敵な旦那様――そんな彼の実弟との、道ならぬ恋愛(こい)。……確かに、これ以上刺激的な状況(こと)もそうそうないか。
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