婚約者

1/5
前へ
/14ページ
次へ

婚約者

「――ねえ、藍良(あいら)さん。ここからどのように考えれば良いのかしら?」 「――ああ、そこからは『m』が有理数であると仮定すれば良いのです。それで矛盾が生じてしまえば、有理数と仮定したことが間違っていたことになるので、その結果『m』が無理数であることが証明されるのです」 「……ああ、なるほど。ごめんなさいね、手間がかかってしまって。いつまで経っても数学は苦手なのよ」 「いえ、お気になさらないで下さいお嬢様。それが僕の役目なので」  穏やかな陽光差し込むある日の昼下がり――檜の香りが心地好い和のリビングにて。  謝意を伝えながらも、どこか楽しそうにそう話す可憐な少女。そして、僕はそんな彼女の家庭教師を務めている。彼女と出会ってもう数年になり、当然ながら当時よりも成長しているけど――そのあどけない笑顔は、さながらあの頃のままで。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加