婚約者

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 ところで、僕が庶民であるからして、そんな僕の身内である柑慈(こうじ)兄さんもやはり庶民である。なのに、そんな兄がどうして上流階級たる紗霧(さぎり)お嬢様とお近づきどころか、婚約なんて僥倖に恵まれたのか――それは、身分の差なんて霞むほどに兄さんが優秀過ぎるから。  柑慈兄さんが未来のお義父(とう)様――紗霧お嬢様のお父様の目に留まったのは、高校生などを対象に毎年開催される数学能力を競う国際大会――数学オリンピックの会場でのことだ。  彼女のお父様はビジネスの――ひいては人生の成功において、数学の能力に頗る重きを置いているとのこと。なので、穎脱(えいだつ)した数学の才を備える若人集うこの大会に数年前から毎年足を運んでいたらしい。そして、その数年の中でも一際異彩を放っていたのが――僕の自慢の兄こと、柑慈兄さんというわけだ。  
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