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土曜日の朝、二日酔いで目覚めた僕は混乱している。昨夜のことはよく覚えていない。
『慎!』
昨日一人で飲んでたら、翔に会って…
久しぶりだから、一緒に飲もうってことになって。
結構盛り上がったよな。
だけど…
「これって、どういう状況…」
ベッドの隣では、翔が眠っていた。
しかもここは翔の部屋だ。
布団もTシャツも自分とは違う匂いがする。
スウェットも借りちゃってる…
それでも、ふたりとも裸ではなかったので、まだ僕の理性は保たれていた。
まさか、やらかしてないよな…
お金借りたりとか、飲み過ぎて吐いたりとか
…告白したりとか
そう。
僕は翔が好きだった。学生時代からずっと。
翔とは学部も学科も一緒だったけど、バスケットボール同好会のメンバー同士でもあった。毎週大学のそばにある公民館を借りて汗を流していて、そのまま飲みに行ったりもした。
どちらかと言うと陰キャで、上京したばかりで友達も少なかった僕は、翔といるとほっとして安心できた。
彼はとても気さくで皆に慕われていたけど、なぜか僕とはいちばん気が合うみたいだった。よくふたりでいろんなことを話したり、あちこちに出かけたりもした。
翔には彼女がいたが、ちょうど1年前、卒業を前にフラれてしまった。その夜は、憂さ晴らしにふたりで飲みに行った。
「慎、ありがとな。付き合ってくれて」
真夜中に駅前の噴水広場で、翔は僕と肩を組むように寄りかかって座り込んだ。
「僕も翔と飲みたいんだから、そんなの気にすんなよ。それより大丈夫か。一人で帰れんのか」
翔は僕の顔をじっと見つめていたが、急にしがみつくように僕の腕を掴んできた。
「…前から思ってたけど、おまえっていいヤツだなー」
しみじみと言う翔が何だか微笑ましくて、僕は彼の前にしゃがみこんだ。
「何よ、今さら」
「きっとおまえといたら、毎日楽しいだろうな」
「…いるじゃんよ、毎日。呆れるくらい」
翔はくしゃっと笑った。
「ははっ。そおかぁ、そうだよなぁ」
そうして酔いつぶれた翔は、その場で寝てしまった。
僕はしかたなしに彼をおぶって、自分の家まで運ぶとベッドに寝かせた。
どんなに動かしても、彼は起きなかった。
いつもはしっかり者で元気が取り柄の翔が、今夜は寂しがり屋の子どもみたいに僕に甘えていた。そのギャップを可愛いとさえ思ったし、頼りにされるのは嬉しかったけど、僕の気持ちは複雑だった。
彼女のこと、本当に好きだったんだな…
汗をかいていたので、トレーナーを脱がせてTシャツ一枚にすると、濡れたタオルで体を拭いてやった。
それでも一向に起きる気配はない。
僕はベッドのそばに座って、翔のさらさらの前髪に指を通してかきあげてみた。
頬に手を当ててみた。
「ん…」
寝返りを打った翔の顔が、ちょうど僕の目の前に来たのでドキッとしてしまった。
無防備な顔で眠っている翔を見て、僕はその時、すでに「恋」に落ちていることに気がついた。
僕は翔の額にそっと唇を押し当てた。
ドキドキが止まらなくて、彼を抱きしめたくて仕方なかった。僕は翔に背を向けてベッドに寄りかかると、両手で口元を押さえて大きく息をついた。
何だかいけないことをしてしまった気分だった。
頬だけじゃなく、耳まで熱くなっていた。
何でも一緒だった僕らだけど、さすがに就職先は違っていた。それでも今住んでいる所から通えるし、都内だしいつでも会えると安心していた。
だけど新入社員の忙しさは想像以上で、初めの頃こそメッセージのやり取りを数回したけど、お互いにそれ以上の連絡を取るきっかけがないまま、半年が過ぎていた。
そして昨夜、偶然翔に会ったんだ。
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