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流しに立って洗い物をしていた僕は、翔の動きに気づかなかった。背中に気配を感じたと思う間もなく、後ろから抱きしめられた。
「な、何…?」
「…ごめん。少しだけこのままでいさせて」
「翔…」
僕より少し背の高い翔に、すっぽりと抱きすくめられて僕は動けなかった。耳のすぐそばで翔の声が聞こえて、吐息が首筋にかかるのを感じた。
自分の鼓動が彼に聞かれてしまわないか、それが気になってしかたなかった。
「…昨夜のこと、覚えてる?」
「う、ううん」
「やっぱりそうか」
「ごめん。僕何かした?」
翔はそこでふふっと笑った。
怒ってはないみたいだけど…。
「慎さ、俺のこと『好きだ』って言ったんだよ」
やっぱり、やらかしてた!
しかもいちばんヤバいやつ!!
顔が一瞬にして火照るのがわかった。
「えっ、や…、それは…」
「1年前からずっとって。俺、それ聞いてさ…」
穴があったら入りたいって、こういう時だな…
「…すげー嬉しかった」
「え…」
聞き間違えた?
今、嬉しかったって…
「俺も慎のこと、好きだよ」
「…そうなの?」
声が震えるのを抑えるのに必死だった。
「うん。でもさ、酔っぱらった時って本音が出るって言うけど、できれば素面の時に言って欲しいんだよね」
「…って、今?」
「ダメ?」
翔はそう囁くと、僕の首筋に唇を這わせた。
心臓が壊れそうなくらい鼓動が速くなって、頭の中が真っ白になった。僕は両手で翔の腕にしがみついた。
「ん…っ」
「慎、お願い…」
吐息混じりに翔がまた囁く。
気が、遠くなる…
「……す、きっ」
声にならない囁きで、僕はやっとのことで口にした。
「もう一回…。ちゃんと言って」
「翔…、好き、だよ…」
恥ずかしいのと嬉しいのとがぐちゃぐちゃに混ざってて、もう何も考えられない。
翔が深いため息をついた。
耳にその吐息を感じて、僕は膝から崩れ落ちそうになった。
「…ありがと。慎」
翔は首筋に短く口づけて、僕をぎゅっと抱きしめた。そして腕を離して解放してくれた。
「やっと素直になったな」
「…何のこと?」
「ふふっ、ごめん。告白されたなんて嘘。そんなのなくても、慎が俺のこと好きなのバレバレだし」
笑ってる翔を呆気に取られて見ていると、不意に彼が真顔になった。
「でも、俺の気持ちは嘘じゃないよ」
「…どういうこと。からかってるの?何で、そんなこと…」
「おまえさ」
あわてる僕を翔が遮った。
「1年前、酔っぱらって寝てた俺にキスしただろ」
「!」
えっ、バレてたの
「それまでは単なる親友だと思ってたのに、俺はあれでおまえのことが好きになったんだからな。責任取ってもらうぞ」
「せっ、責任って…。あの、今のでチャラでは…」
「さあなぁ。さっきおまえの弱点、見つけちゃったからなぁ」
翔はニヤっと不敵な笑みを浮かべると、僕の首筋を人差し指ですうっと撫で上げながら言った。翔の吐息を思い出して、僕はまた足の力が抜けてその場に座り込んでしまった。
「そうだ。よかったら今日も泊まってく?」
翔が僕の顎に指をかけて、楽しそうに笑った。
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