第六話 朱莉有翼人服店、開店

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 私の声はひっくり返った。  蛍宮には二つの保護区がある。獣人保護区と、建設途中の有翼人保護区だ。  有翼人保護区は世界的に見ても初の試みで、有翼人の生活改善は誰もが着手を嫌がっていることだった。  その理由は各種族の歴史にあった。まずこの世界の『国』の大半は種族ごとに固まっている。これは種族ごとに本能や生態が違うからだ。  人間は特筆する本能や特殊な生態は無いが、高い知能で高度な技術を開発し文明を発展させた。しかし彼らは他者への関心が薄い傾向にある。人間内でも『他所は他所うちはうち』で、他種族との共存に積極的ではない。  対して獣人は獣種ごとに固まる傾向にある。肉食や草食、夜行性など特有の本能があるため他種族や他獣種との共生が難しいのだ。  そのため人間の国、獣人の国、となってしまうことが多かった。しかし近年人間と獣人が共存する国が増えている。これを成したのはやはり人間だった。人間が獣種の特性を生かした仕事を確立したのだ。腕力や脚力が高い獣種による宅配業は代表的だ。  しかし有翼人は難しかった。羽があるため肉体労働が難しく、羽根が舞うだろうと飲食店からは嫌がられる。私のように家から出られない者は扶養されるしかないため、総じて生産性に乏しい種族なのだ。  つまり協力することに利益が無く、人間も獣人も有翼人のために手を尽くそうとはしない。  そんな中で蛍宮は初めて有翼人の生活向上の取り組みを始めた。獣人保護区はどうしても人間と共生できない本能を持つ者が集まるが、それと同じように有翼人が無理せず過ごせる場所なのだ。今では世界中から有翼人が移住を希望して集まってきている。  そういえば薄珂様は有翼人保護区作りもなさったとか。そのご縁でご紹介下さったのかしら。でもどうして私に……  有翼人保護区区長は全有翼人を守る立場にあると言っていい。どう考えても「友人を紹介」なんて軽く話せる相手ではない。  一体何がどうなっているのか分からず立ち尽くしていると、暁明さんはにこやかに私の背をとんとんと叩いてくれた。 「実はあの印刷生地は響玄殿が下さったんだよ」 「え!? じゃあ凄く高級な品!?」 「あれ自体はね。だが全く売れなかったんだよ。もう廃棄するつもりだったから気にしないでいい」 「あ、有難う御座います。何とお礼を言ったら良いか」 「礼? 礼か」  響玄様は暁明さんと視線を交わすと、私を見つめてにこりと微笑んだ。
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