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身体を包んでいた布を放り捨てて立珂様の待つ部屋へ戻ると、私の姿を見て母は膝から崩れ落ちた。
「なんてお洒落なの……!」
「……立珂様は神様なの?」
「う? 僕は有翼人だよ」
立珂様はこてんと首を傾げた。にこりと愛らしい微笑みで、それは今起きているのは何でも無い日常だと言っているようだった。
同じ有翼人とは思えない。幻だと否定することで悔しさを堪えていた。けれどその奇跡が私にも与えられた。ほんの数分で私は奇跡が日常になったのだ。
私は立珂様に駆け寄り膝を付き、思わず両手を握りしめた。
「お礼をさせて下さい! お金は無いですが、何か、何か」
「じゃあ羽根一枚ちょうだい。うちの店は一着羽根一枚と交換なんだ」
「そんな汚い羽根捨てるだけですよ!」
「うちは使い道あるから集めてるんだ。抜けたの貰うね」
「は、はあ……」
薄珂様は抜けたばかりの羽根を一枚広い、腰の鞄にぽいっと無造作に放り込んだ。
それは捨てるだけの羽根だ。立珂様のように美しいわけでもない。そこらの落ち葉と似たようなものだ。埃を舞散らすことを考えると落ち葉より質が悪い。
お母さんを見るとやっぱり不安そうにしていたけれど、そんな私たちの顔を見た立珂様はぴょんっと跳ねた。
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