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母が朝から働きに出て数時間経ち、私は黙々と刺繍していた。
別に手芸が好きなわけではない。動かず家の中でできる仕事しかできないので消去法でこれになっただけだ。
しかしお金を払って刺繍をさせるなんてどういう金持ちなのだろうか。だがせめて自分の薬代くらいは自分で稼ぎたい。例えつまらない仕事でも贅沢は言えない。
それでも節約のため灯りすら付けられない薄暗い部屋でちくちくやるのは気が滅入る。
気晴らしに外へ出ようと、私は四つん這いで扉を開けた。そよそよとそよぐ風は心地良く、杖を突きながら日陰をそろそろと歩いた。
するとその時だった。そこで私は許せないものを見てしまった。
「……あれは何?」
通りの向こうに何かがいた。十二、三歳だろうか。私よりも十歳は若い有翼人の少年で、人間の姿をした黒髪の少年に抱っこされている。だが羽は背より少し大きいくらいで歩くことに難はなさそうだった。何故抱っこする必要があるのか分からない。
しかし私が驚いたのはそれではない。羽の色だ。少年の羽は作りものかと疑うほど真っ白だったのだ。
純白の羽なんてありえない! 普通は何かに色が寄ってるわ!
私の羽は枯れた銀杏の葉のようにくすんでいる。けれど私が特別こうだというわけじゃない。有翼人の羽はそれなりに薄汚れているものなのだ。純白の羽なんて天使とかいう苦労知らずな架空の生き物で、そんなのは有翼人という現実を苦しむ生き物ではない。
それでも少年の羽は白く輝いていた。愕然として見つめていると、もう一つ輝くものが目に飛び込んできた。
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