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 それは純白の羽根を持つ少年の服だ。身体にぴったりと沿う細身の仕上がりで、きちんと羽が出ているけれど背はどこも露出していない。  何? どうしてあの子は普通の服を着れるの?  有翼人は服らしい服を着ない。万人が布を巻き付けるだけだ。これは貧乏だからではない。羽を出せる既製服が存在しないからだ。  人間と獣人は同じ服で良いが、常に羽のある有翼人だけはそうはいかない。しかし有翼人は私と同じ理由でに動けない者ばかりで、専用の服を作る事業を始める余力などないのだ。  仕方なく人間の服に穴を開けるが、ここで大きな問題がある。穴を開けたところで一人で脱ぎ着はできないのだ。誰かが羽を穴に通す作業が必要で、それを一人でやろうものなら汗だくだ。羽を抜き差しするうちに穴は広がり、二、三日すればもはやただの布切れになり下がる。  つまりどうしたって布を巻くだけになり、それが有翼人の服なのだ。  けれど純白の羽根を持つ少年の服は違っていた。ぴたりと身体に沿い、羽を出していても肌は全く露出をしていなかった。  あの服どうなってるんだろう。私でも着れるのかな……  私は釘付けになった。地模様が薄っすらと煌めく黄色い生地に黄金の刺繍。縁取る緑の生地も煌めいているが、決して下品ではない。  しかし不思議な形状だった。肩や脇にやたらと釦が付いている。前身頃と後身頃で生地が異なり、ぱっと見る限りで後身頃はとても薄い生地のようだった。  異素材だわ。それも違和感の生まれない絶妙な組み合わせ。釦は多いけど服本体に柄が無いから全体を引き締める役割になってる。すごくお洒落……  手芸に興味はないけれど、続けていれば服飾に関する知識だけは増えていた。見たこともない形状と高級な生地、悔しいけれど私の手では到底作れない繊細な刺繍に釘付けとなってしまった。
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