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 私は無意識のうちに手を伸ばしたが、純白の羽根を持つ少年は抱っこして貰っていた腕からぴょんと飛び降りると元気いっぱいに走り出す。ふいに見えた顔は柔らかそうなぷくぷくの頬と、羽よりも眩い輝きを放つ笑顔だった。  とても愛らしくて、幸せいっぱいと言わんばかりの笑顔は私なんかが声をかけて良い存在ではなかった。  美しい羽に駆ける脚。軽々抱いてくれる人もいる。同じ有翼人なのにどうして私は……  杖を握る手から力が抜け、私は転ぶように座り込んだ。その拍子にがりっと小石が頬を抉った。 「おい。大丈夫か」  ふと視界が暗くなり男の声がした。憐れんでくれたのか、手を差し伸べてくれている。  見上げると、そこにいたのは一人の青年だった。人間か獣人かは分からないが、背に羽が無いということは有翼人ではない。  ――私とは違う。 「大丈夫か?」 「……大丈夫に見えますか」 「ああ、いや……」 「放っておいてください」  哀れみの手に縋りたくないという自尊心だけは高く、私は杖を頼りになんとか一人で家に戻った。  汚れた羽を叩いてから床に広げて、その上にごろりと転がった。敷布団を必要としないことだけがこの薄汚れた羽の利点だ。  きっとあの子はふかふかの布団で眠るんでしょうね。あんなお洒落な服、絶対お金持ちよ。  そんな醜い嫌味を念じるしかできない自分が愚かなことは分かっていた。それでも瞼を閉じれば純白の羽根を持つお洒落な少年の姿が脳裏に浮かんでくる。  有翼人が欲しいものを全て持っていた。羨ましくてたまらない。  ――ああ、そうか。あれは幻だったんだ。私の理想を形にした幻影。誰も手に入れられない憧れ。  そう言い聞かせて私は天井を見つめた。  私は疲れていた。ひどく、ひどく疲れていた。
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