第六話 朱莉有翼人服店、開店

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第六話 朱莉有翼人服店、開店

 暁明さんが『商人の友人を紹介する』と軽く言ってくれた。軽くだ。軽く、とても軽く。  きっと同じように衣料品店をやっている人だろうなと、私も軽い気持ちで暁明さんに着いて行った。  どんな人だろう。有翼人かな。  私は新たな出会いに胸を躍らせていたけれど、到着したお店を見てそんなものは吹き飛んだ。 「こ、ここって……」 「知ってるかい?」 「知ってるも何も! 蛍宮最大の個人商店『天一(てんいつ)』じゃないですか!」  ここへ入ろうとしているのだと思うだけでどっと冷や汗が出てきた。  天一は超一級しか扱わない名店中の名店。庶民にとっては宮廷と同じくらい遠い存在で、手を合わせて拝んでも良いくらいだわ。それがどうして私なんかに……!?  ご近所さんとお喋りするような感覚でやって来ていたことが愚かしい。  身の程知らずにもほどがあり震えたけれど、暁明さんは軽く笑いながらさらりと中へ入ってしまった。 「朱莉ちゃん。ほら」  おいでおいでと手招きをされたけれど私の脚は動かず、結局くすくすと笑う暁明さんに引きずられるようにして店へ入ることとなった。  絶対に店内の物を壊してはいけない。周辺に何も無い場所でじっとしていようと思っていたが、意外にも店内は簡素だった。硝子扉の棚が一つに会計台が一つ、作業台と思われる大きな机があるだけで商品は何も並んでいない。かろうじて硝子扉の棚に装飾品が並んでいるが値札など立っていない。  店頭じゃないのかしら。でも看板が掛かってたし……  商品の陳列がされていないのなら店とは言えないだろう。一体どういうことだろうときょろきょろしていると、かたんと物音がした。 「うちは取り寄せのみだから商品は並べていないんだよ」 「え!?」  私は声のした方を振り返ると、そこには一人の男性が立っていた。羽がないので人間か獣人だろう。  歳は暁明さんと同じくらいだろうか。とても品があり、高級店の店主であることは一目瞭然だった。 「そちらが朱莉さんかな」 「はい。朱莉ちゃん。こちらが天一の響玄(きょうげん)殿だ」 「お初にお目にかかります。朱莉と申します」 「立珂から聞いているよ。私は響玄。天一店主兼、有翼人保護区区長だ」 「有翼人保護区区長!?」
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