第六話 朱莉有翼人服店、開店

3/9
64人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
「では店を開いてくれないかな。有翼人専用服の店を」 「店、ですか。それはもちろん目標にしています。でも在庫作りすら私一人じゃままならなくて。お家賃を払うのも難しいですし……」 「分かっている。それは全て私が手配するから心配いらない」 「……え? いえ、そんな、私の我が儘を叶えて頂くなんてとんでもありません」 「これは君の我が儘を叶えるわけじゃない。私からの事業提案だ」 「事業提案?」 「有翼人保護区はまだ未完成。生活必需品の小売店は迅速に用意しなくてはならないが、衣料品が行き詰っていてね」 「衣料品というと服ですよね。立珂様がいらっしゃるのに行き詰るのですか?」 「立珂の服は毎日使える物ではない。何よりあの販売方法ができるのは立珂の立場があってこそ。同じ方法で小売店の経営はできないんだ」 「ああ……」  立珂様のお店は全商品が羽根と交換可能だ。あれだけ高級な生地でありながら羽根一枚で良いなんて、有翼人にしたら考えられない。羽根は髪の毛のようなもので、日に何本も抜ける。掃除が面倒なくらいだ。  つまり有翼人にとってはごみ同然で、交換に値する物ではない。 「あの羽根交換には何の意味があるんでしょう。何の価値もないのに」 「価値を見出す者もいるんだ。立珂も私もその協力も頼まれているが、羽根をくれと言って回るなんて有翼人迫害にもみえるだろう」 「そう、ですね……」  有翼人が引きこもりがちなのは羽ともう一つ理由があった。それが有翼人の迫害だ。  今でこそその風潮はなくなったが、人でも獣でもない有翼人は異形として嫌悪された。特に獣人優位の国では迫害の傾向が強かった。  蛍宮もほんの数年前まではその傾向にあった。肉食獣人が絶対強者であり、有翼人は迫害され搾取されるだけだったのだ。  しかし現皇太子天藍様に代が変わり一転し、世界で最も有翼人に優しい国になったのだ。  だから私も引っ越してきた。私はそんな酷い目にあったことはないけど、迫害されてきた人にしてみれば「羽根をくれ」なんて恐ろしく思うのかもしれない。  響玄様はぽんと私の肩をそっと優しく叩いた。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!