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第一話 純白の奇跡
ここは蛍宮という国だ。人間と獣人、有翼人の三種族平等を掲げている珍しい国で、孤児難民の受け入れも積極的なので有翼人も多く集まっている。
しかし私にとっては生活しにくい土地でもある。蛍宮は年中温暖で、真冬になるまで長袖が必要になることはない。
今日は少し暑い。動けば汗をかき母に水浴びの手間をかけるだけだからじっとしているだけだ。
毎日天井を見つめるだけなんて何のために生きているのかを見失いそうになってくるけれど、ふいにばたばたと激しい足音がした。そして勢いよく扉が開き、駆け込んできたのは仕事に出ていたはずの母だった。
「朱莉! 起きてるかい!」
「起きてるよ。どうしたの?」
「すごい話を聞いたよ! 羽は小さくできるんだって!」
「は?」
「立珂様も歩けなかったらしい。でも羽を小さくして歩けるようになったって!」
「ちょっと落ち着いて。立珂様って誰?」
「殿下の御来賓よ! 治す方法があるのよ! 立珂様に聞いてくるわ。待ってなさい!」
母は泥に汚れた服を脱ぎ捨て綺麗なものに着替えると、私の回答など一つも聞かないうちにびゅんと家を飛び出て行ってしまった。
嵐のように帰宅し夢物語を語った母を見送ると、私はため息を吐いて寝台に転がった。
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