銀花姫 13

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銀花姫 13

夜中すぎまでアホみたいにセックスして、起きたのが朝とは言えない十時すぎで。 まだ眠っている雪をベットに残したまま、オレはこうしてシャワーを浴びている。 昨夜のことを振り払うように、オレはシャワーを浴び続けて、色々落ち着いたから浴室を出て、服を着た。 今日は夕方から事務所で打ち合わせがあるから、洗面台でヒゲを剃って、さっぱりした自分の顔を見る。 気づかなかったけど、耳たぶに血が滲(にじ)んでいた。 そう言えば・・・雪に噛まれた気がする・・・。 なんか満身創痍(まんしんそうい)だな。 まあ、初めてのセックスだから色々高ぶっただけだろう。 慣れれば落ち着くかな。 そんなことを考えながらキッチンに行って、薬缶に水を入れてガスコンロに置いて火にかける。 洗うのを忘れていた昨夜の食器や箸を洗って、鍋に残ったおでんを皿に移して冷蔵庫に入れて鍋を洗う。 コーヒーを飲みたいので、ドリッパーをマグカップの上に置いて、ペーパーフィルターをセットして挽いたコーヒー豆を入れる。 そうこうしている内にお湯が沸いたので、オレはゆっくりとお湯を注いでコーヒーを淹れた。 窓から差し込む陽射しを眺めながら、ダイニングテーブルの椅子に座って、ゆっくりとコーヒーを飲んでいると、寝室のドアがゆっくり開いて。 おずおずと、雪が顔を覗かせた。 「あ・・・あの・・・」 「おはよう」 いつも綺麗に整えられている漆黒の髪が、寝起きのせいでボサボサの状態で、顔を半分だけ出した状態で、雪は恥ずかしそうに泣きそうな表情(かお)をする。 「ふぇ・・・おはよう・・・」 「くすくす」 思わず笑ってしまったオレを、雪は頬を膨らませて見る。 その様子がなんだか可愛くて。 子供のようだけど、ひどく大人びた感じもして。 昨夜とのギャップが激しくて。 愛おしくて。 オレは笑いが止まらなかった。 * 猛と顔を合わせているのが恥ずかしくて、ボクは逃げるように自分の部屋に戻って、浴室に逃げ込んだ。 熱いシャワーを頭からかぶって、ふとした拍子に昨夜のことを思い出しそうになるのを振り払うように、長い髪を洗って全身を洗って。 顔を洗おうと、洗顔石鹸を両手で泡立てて。 石鹸置きに戻そうとしたら、石鹸が床に落ちしまったのを拾い上げようとしゃがんだ時に。 中から何かが出てきた。 猛を受け入れたところから、どろっとしたのがなんか・・・出てきて。 びっくりして見たら、透明なような白っぽいような、何か。 「うああああぁっぁっぁ!」 思い出す。 猛がボクの中に入ってきて、いっぱい擦っていっぱい奥まできて、いっぱい気持ちいいところ責められて、全身隅々まで舐められて撫ぜられて、好きだと愛してると囁かれ続けて。 同じくらい猛にしがみついて、もっと欲しいとねだって、キスを要求して、もっと奥まで犯して欲しいと懇願したことを。 猛のが気持ちよくて、抜かないでと懇願して、腰を振って締め付けて、全部ボクの中に出してと喘いでいたことを。 一気に思い出して。 思わず叫んでしまった。 出てきた何かをシャワーで流して、後ろの穴も流して、パニックになりながら浴室を出て、服を着てキッチンに移動して椅子に座り、無駄に髪をタオルで挟んでバシバシ叩いて水分を取る。 こんな風に中から出てきても、腰が痛くても、全身の関節が痛くても、猛が入ってきていた穴がちょっと痛くても、そこから中で出された体液が出てきても。 猛を責める気持ちにはなれなくて。 猛はボクの体を気遣ってくれて、何度もやめようとしてくれていたのに、ボクが我儘(わがまま)を言ってねだって懇願して、何度も何度もしてもらったことを、覚えていた。 気持ちよかったことを、覚えていた。 理性なんかどっか行っちゃって、猛のキスに指に舌に視線に、熱とお腹の中を蹂躙(じゅうりん)したものと、いっぱい出してとねだった体液を、全部覚えていた。 猛と裸で抱き合う気持ちよさを、初めて知った。 猛に全身撫ぜてもらう心地よさを、初めて知った。 猛に全部、全部愛してもらう嬉しさを、初めて知った。 大好きな人と、肌を合わせる喜びを。 大好きな人と、一緒にいられる幸せを。 ボクは、知ってしまった。 「・・・っつ!」 だから、苦しかった。 今まで猛と付き合った人は、あんな風に抱かれていたんだ。 猛はあんな風に、ボクが顔も知らない人たちを抱いていた。 ボクの知らないところで、ボクの知らない時間に。 猛は誰かを抱いていて。 ボクの知らない人は、あんな風に愛されていた。 あんな風に、優しく、激しく、愛されていた。 ボクなんかよりも、愛されていた。 愛されてたんだ。 何度も何度も、執拗(しつよう)にしつこく、髪をタオルで叩き続ける。 その長い黒髪に、涙が落ちた。 泣くつもりなんかないのに。 涙が落ちた。 猛に抱かれる前よりも、孤独を感じた。 ボクは独りだった。
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