希望と朝陽

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 映画館は学校から歩いて一〇分もかからなかった。壁の一つが一面ガラス張りになった開放的な空間に懐かしさを覚える。  ここしばらく映画館に行っていないからか、上映されている映画に俺が聞き覚えがあるものは一つもなかった。ポスターに写っている俳優にも、まったく馴染みがない。  俺たちはポスターを参考にして、二人の女性が主人公のアクション映画を観ることに決めた。俺もトモハルもアクション映画が好きだったから、たぶん外すことはないだろう。  売店でポップコーンとドリンクを買って、俺たちはスクリーンの入り口がある二階へと向かった。吹き抜けになった部分を囲むようにして設置された椅子に並んで座る。 「やっぱこんな格好で映画館に来るのはまずかったかな」  ポップコーンを口に運びながら、トモハルは呟く。チケットには「5/17(火) 13:45の回」と印刷されていた。平日の昼間に制服を着た高校生がいるのは、さぼりだと思われても仕方がない。  だけれど、今の俺だって上下灰色のジャージを着ている。とてもトモハルのことを言える立場じゃない。 「別にいいんじゃねぇの。どんな格好をしてても人の迷惑にさえならなければ。俺も同じようなもんだし」  どうしてトモハルが制服を着ているのかは、訊かなかった。訊いても煙に巻かれるだけだと感じた。 「ところでさ、これからどうすんだよ」 「どうするって?」 「映画観た後。晩飯には中途半端な時間じゃんか」  違う。俺が訊きたいのはこんな目先のことじゃない。ここはいったいどこで、隣にいるトモハルが何者かってことだ。  でも、いざ訊いて現状が確定してしまうのが、俺には怖かった。  どうでもいいことを口にした俺にも、トモハルは真面目に考えてくれる。「そうだな……」と前置きをしてから、あっさりと言った。 「近くのマックでなんか食ってればいいんじゃね? ダラダラしてるうちに、晩飯の時間になってるだろ」  「それに映画をもう一本観るっていう選択肢もあるわけだしな」。トモハルはそう付け加えていたが、俺はこの得体の知れない状況で、映画を二本も観たくはなかったので、最初の提案に同意した。トモハルも微笑みながら頷く。  劇場内に開場を知らせるアナウンスが流れた。
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