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「よう、また会えたな」
目を覚ますと、俺は教室にいた。五月一七日の日付が書かれた黒板に、壁に貼られた掲示物。三階の窓からはしばらく見ていない街並みが見えた。
目の前には、机に座っているトモハルがいる。第二ボタンまで開けた制服は、間違いなく俺の母校のものだった。
「どうしたんだよ、ノゾム。そんなキョトンとして」
トモハルは薄ら笑いを浮かべながら訊いてきた。長い間聞いていなかった声は、記憶していたよりも高く幼く感じられた。
「何だよ、これ。夢か?」
「正確に言えば違うな。もっと別のもんだ。それよりもお前は俺に会いたかったんだろ。で、今こうして会えてる。それでいいじゃねぇか」
よくない。そう思ったが、口には出さなかった。もう二度と会えないと思っていたトモハルとこうして話せているのは、奇跡以外の何物でもないだろう。
もちろん、まだ大いに戸惑っている。ここがどこなのか、尋ねたくてたまらない。
でも、飄々としているトモハルを見ると、いくら訊いてもはぐらかされそうだと感じた。
「ああ、会いたかったよ。あの日から、お前を忘れたことなんて一日もない」
「おう。そりゃどうも。ノゾムこそどうなんだよ。元気にしてた? って訊くのは違うか。でも、本当久しぶりだよな。ノゾム全然変わってねぇもん」
「まあ身長も大して伸びなかったしな。でも、ありがとな。誉め言葉として受け取っとくよ」
俺は苦々しいものを感じた。トモハルはもう変わりたくても変われないというのに。
「よし、じゃあそろそろ行くか」
トモハルが机から立ち上がる。俺よりも一〇センチメートルも高い身長は、あの頃と何も変わっていない。
「行くってどこにだよ?」
「さあ。でも、ここにいても特にすることねぇだろ。せっかくまた会えたんだから、あの頃みたいに遊んでようぜ」
トモハルの言うことは、ある意味もっともだった。この教室にいても、二人で話す以外にすることはない。
当然事態をまだ把握できたとは言い難い。でも、俺は頷いていた。手がかりすらない状況では、トモハルについていくのも悪くはないだろう。
「とりあえず映画でも観るか? ノゾムがよければだけど」
俺は再び頷いた。あの頃は月に一度は映画を観ていたから、トモハルの提案は妥当だ。
同意した俺を見て、「そうと決まれば行こうぜ」とトモハルはさっそく教室から出ようとする。
でも、俺はトモハルを呼び止めていた。
「お前、なんで俺たちがまた会えたのか訊かないのかよ」
トモハルはまた小さく笑った。
「さあな。俺に分かるわけねぇだろ。まあお前にも色々あったんだよな。だからってわけじゃねぇけど、今日は何も考えずに楽しもうぜ」
呑気に言ったトモハルに、俺も足を動かし始める。ここにいても何も解決しないし、トモハルと再び同じ時間を過ごせることが、訳が分からないにしても嬉しかった。
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