片山理沙の失意

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片山理沙の失意

 号砲が宮殿内に響き渡り、優勝者は私に決まった。私はこれで国王に会えると思って涙を堪えるほど嬉しさを噛みしめた。  大会は猛者ばかりで生き残った私は満身創痍だった。私の元に衛兵が集まってきて王室に呼ばれた。  王室に着くと国王の柳田が椅子に座りふんぞり返っていた。緞帳に誰かが隠れている気配があった。 「まさかおまえが優勝するとはな」 「国王様、お久しぶりです。私は国王様のために法で裁けない悪者を殺してきました」 「おお、おまえの働きぶりは見事だった」 「私は罪に問われないと国王様がおっしゃるので心を無にして人を殺してきました。しかし私は大金をかけられた賞金首にされました。真相をお聞かせください。私がなぜ罪に問われているのですか?」  柳田は整えられた顎髭を触りながら不気味な笑みを溢した。 「おまえに殺しを命じた奴はまだ罪のない奴ばかりだ。わしに反旗を翻そうと企んでいた、言うならば罪の種だ」  私はその言葉に絶句した。身体の芯から沸き起こる怒りと絶望に打ち震えた。 「罪のない人間を私に殺させたのですか?」 「罪はないが重大な罪を犯す可能性のある奴だ。そしてそいつらを殺したおまえにも死んでもらおうと思っておる。よくある話だろう。真実は闇から闇に葬り去るものだ」  私は柳田に騙されていたことがわかった。今まで頑張ってきたことは何だったのか。柳田が大きな欠伸をつくとおもむろに声を発した。 「武闘大会で英雄になった者におまえを殺してもらおうと思って考えていた。腕が立つおまえでも殺せるだろうとわしは睨んでいた。おまえが勝ち残って計画は台無しだが、今の疲れ果てた状態なら衛兵どもが殺せるだろう」  柳田が衛兵に目をやり顎を私に向けて殺すように指図した。衛兵が私に近づいてきた時に、王室内に二人の人間が現れた。  一人は武闘大会で不正がないか調べる審査員を務める衛兵だった。もう一人は倒れているはずの北条が緞帳から姿を見せた。  審査員が場の空気を破って大声を出した。 「国王様、報告致します。優勝した片平理沙は使用可能な薙刀の他に外部から粉状の毒物を持ち込み使用した痕跡があります。武闘大会の注意事項における第七条、外部から持ち込んだ物を使用した場合、それが判明した時点で失格を適用します。よって、優勝者は二番手の北条一政になります」  国王が目を剥いて驚き、眉間に皺を寄せてわなわなと震えていた。そして王室内に響き渡る怒声を発した。 「衛兵達、そして優勝して英雄になった北条、違反を犯した片山を今すぐ殺せ。もうおまえの顔など見たくない!」  衛兵達が私に近づいてくる中、私は薙刀を振り回して柳田の側まで進んだ。柳田は怒りと恐怖を感じた顔をしている。  私は身体がぼろぼろの中、柳田に全力を込めて薙刀を振り下ろした。柳田の頭、腹、足を切り裂いて、柳田は倒れて絶命した。  私はあらゆる戦いで疲れ果て、その場に座り込んだ。衛兵が私を殺そうと躍起になっている。  私はここで死ぬのも悪くないと思っていた。しかし私が窮地の所で北条が衛兵を倒していた。私の毒がまだ残っているにも関わらず、その姿は強く勇敢だった。  私には何が起こっているのかわからなかった。なんで北条が私を守っているのか。 「私はもう死んでいいと思っている。私を守れば、あなたも謀反人になります」 「さっきの二人の会話を聞いていた。おまえは国王のために誠意を尽くして、国王はそれを利用して役目を終えたおまえを殺そうとした。国王は殺されて当然だ」  私は北条の言葉に涙した。私の味方はこの人しかいない。衛兵達が私と北条を取り囲んだ。その数は二百人以上。 「この絶望的な状況からどうやって生き延びるつもりなの?」 「英雄は窮地でも笑って勝利するものだ。おまえは俺を殺さなかった。だから俺もおまえを殺させない。俺はおまえを生かしてここから一緒に脱出する。さあ、立ち上がれ!」  私は北条に言われて涙を流すのをやめて立ち上がった。なんて馬鹿な男だ。私と北条が生き残るにはこの絶望的な道に賭けるしかない。  北条は満身創痍の状態なのに笑いながら戦っている。私はそれを眺めて今まで生きてきた中で最も笑った。この人と一緒ならどんな苦境に満ちた未来でも新しい世界を切り開けるだろう。
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