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 会社に着くと野口が江里菜の席に来た。 「おはよう。佐藤さん。モデリングは進んでる?」 「はい。部品が四つ出来ました。あと三つモデリングして組付けるだけです。金曜日までには終わりますよ」  江里菜はそう答えて微笑んだ。 「昨日の話だけど、夫は子供の面倒を見てるって言ったでしょ。あれ、昨日は違ったの。私が帰ったら子供が一人で遊んでた」  野口は小声でそう言って目に涙を溜めた。 「子供を置いて出掛けていたの?」 「うん。七時には帰ってきたけど、どこに行ってたのって訊いたら、何も言わないの。やましいことがあるとしか考えられない。佐藤さんは昨日定時で帰ってたけど、まっすぐ帰った?」  やはり疑われているのだ。江里菜は怒りを通りこして野口が可哀そうになった。 「まっすぐ帰ってどこにも出掛けなかったよ」 「そう……この前つけたとき佐藤さんも見たんだけど」 「え、見間違いですよ。また今度つけてみたら?何か分かるかもしれないですよ。三田さんにも相談して」  江里菜はデスクに置いてあるボックスティッシュからティッシュを二枚取って野口に渡した。野口はそれで目じりを押さえた。  この日は帰りに例の道で男性と会わなかった。江里菜は怖かったのでホッとした。明日の朝も会わなければいいのにと思った。時間差出勤も可能な会社なので少し早く家を出てみようか。  家に着いてスーパーに行くためTシャツとジーンズに着替えた。自転車で例の道を進む。不思議と自転車ならそんなに怖くない。すぐに逃げられるからだろう。  スーパーで玉ねぎと人参、しめじに(たら)を買った。これでホイル焼きを作って食べよう。お味噌汁も欲しいがIHコンロは一つしかない。
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