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 乗り換えの駅で立って電車を待つ。トレンチコートを着ている人が多い。江里菜もベージュのトレンチコートだ。中は白シャツに黒いカーディガン。スカートは黒に緑の小花柄が入ったフレアスカート。職場はオフィスカジュアルだがそんなに煩くない。  江里菜の職業は機械設計だ。毎日CADというソフトを使っている。今は大学でCADを教えてくれるが、それはメジャーなCADだ。江里菜の使っているCADは本も出ていないくらいマイナーなもの。覚えるだけでも四苦八苦だ。  会社に着いて社員カードで自分の課のフロアに入り席に座る。パソコンの電源ボタンを押す。パスワードはやたらと長いものだ。この会社は機密情報に厳しい。データをUSBに保存することも出来ない。 「佐藤さん、おはようございます。ちょっとやってほしい仕事があるんだけど」 「あ、野口さん、おはようございます。いいですよ。納期はいつなの?」  野口糸子は四十歳。正社員で江里菜の上司だ。この前、社内のカフェテリアでお茶をしたとき聞いた話では結婚していて五歳の子供がいるらしい。住まいは電車で二十分だそうだ。江里菜とそう変わらない。
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