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アイスコーヒーを飲みながら野口が声をおとす。 「佐藤さんに相談っていうのはね、夫の浮気なの」 「え? 浮気? 確実なの?」 「このところ帰りが遅いの。夫は三交代で機械オペレーターをやってるんだけどね。この前も朝の六時に帰る予定なのに私が家を出るまで待っても帰って来なかったの。十時休憩に連絡入れたら八時に帰ったんですって。二時間なにしてたんだと思う?」 「残業とか?」  野口はため息をついて肩を落とした。 「本人曰く疲れたから駅のベンチで休んでたんだって。二時間もよ。私には信じられなかった。それでこの前待ち伏せして後をつけたの」  そういえば野口は先週休みを取っていた。多分その日だろう。  少し沈黙が続いた。江里菜はこういう間は苦手だ。でも無理に話の先を促すことはできない。アイスコーヒーの氷を突いていると料理が運ばれて来た。 「わあ、美味しそう。佐藤さん、食べましょう」  二人は料理に手を伸ばした。江里菜の新じゃがは甘くてとても美味しかった。 「佐藤さんはO街道駅に住んでるんだったよね」 「ええ。駅から徒歩五分ってところかな」 「旦那もそこの駅に行っていたのよ」  野口の顔つきが変わった。睨むように江里菜を見ている。疑われているのか。それはお門違いだ。江里菜は言った。 「友達か同僚の家でもあるんじゃない? 浮気とは限らないと思いますよ」
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