1章

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 もうどこを目指して、何を頑張ればいいのかわからない日々はイヤだ。  いつまでも子供で……。理不尽や不条理に対して納得出来ず、感情的になる自分がイヤで仕方ない。でも、筋が通ってないことだろうと心を殺し、機械のように従う自分になるのは……もっとイヤだ。  俺は一体、どうしたいんだろう……。 「昴も授業で聞いただろう。人が生きる――生活する上で、環境要因と人的要因ってのが大切だって」 「はい……。患者さんが生活をしていく上で、動きやすい場所とかの環境。後は支えてくれる人の介助力とか、頻度が大切って話ですよね?」 「概ね間違ってない。これは何も、患者さんだけに限ったことじゃない。医療従事者だって同じだ。働く環境、一緒に働く人や患者さん。ここ次第で、医療従事者だって生活のしやすさや満足度が変わる。当然、性格もな」 「はぁ……」 「もっと毛色が違うところに実習に行けば、昴にもわかるかもしれないぞ」  もしかして、スポーツ現場だろうか?  リハビリの場としてスポーツ現場は、人気な上にほとんど人員の募集がない。高齢化の影響もあるだろうが、ほとんどは高齢者へのリハビリ現場だ。 「……江原先生。俺、野球部だった時にケガをして……。一緒に熱い汗を流して、復帰までのリハビリをしてくれた理学療法士に感謝しているんです。だから、ああいう仕事がしたいと思って、理学療法を学ぶ大学に入ったんですよ……」 「そういう動機で入学してくるやつが多いよな、この職種は」 「でも現実は……違いました。高齢者のご機嫌伺いをしながら、リハビリをしてくださいとヘコヘコする仕事ばかりで。俺、もしスポーツ現場へ実習に行ける可能性があるなら……」  江原先生は、少し考えるように腕を組む。  そして難しい表情を浮かべたまま、机に両肘を付いた。 「まぁ……。つまり、単位取得に足りない分、追加実習をする意思はあるってことだよな?」 「……はい」  正直、辞めてもいい。でも、江原先生が言うように辞めるのはいつでも出来る。自分が救われた、スポーツ現場で情熱を注ぐ理学療法士の仕事が実習で見られるなら――是非とも見たい。 「よし。それじゃあ、今日はもう帰って良いぞ」 「え?」
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