3章

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「多くの患者さんを看取り、思いを宿した私には……後進に、それを伝えていく責務があります。今泉のおかげで、私が生きてきた意味はまた一つ、達成されました」  泣きすぎて酸欠なのか、もう頭が真っ白だ。  今、熊谷先生は……俺に思いを残したって言ってくれたのか?  もしかして――。 「熊谷先生はもしかして、それを俺に教える為に、追加実習を受けいれてくれたんですか? 志をなくして、情熱の行き場がなくて……俺が空っぽだって知ってたから――」 「――今泉くん。人は死して何を残すか。……改めて、残るのは灰に埋もれた骨だけではないのです。その人が抱いた情熱の炎が残ります。生きて成すのは大業でなくとも良いのです。私が後世を生きる人に残すものが、また一つ増えた。その想いの炎が、多くの人に燃え広がって明るい未来を灯していく。一度情熱を燃やしていた人間が、また燃えない道理などないんですよ」  ああ、叶わない……。俺は、熊谷先生に救われたんだ。  やってやろう……。  燃え広げてやろう。――俺から、燃え広げてやろう。  自分の尊敬する理学療法士が、こんなに期待をしてくれているんだ。  自分も、熊谷先生のように患者さんに良い人生だったと最期に思っていただけるような……。そんなリハビリ、看取りへの準備が出来るようになりたい。  いや、なりたいじゃダメだ。  なってみせる。  この悔し涙を、俺は忘れちゃいけない。  力が及ばず悔しかった思いも、林さんが俺を成長させてくれたという感謝も。  全部ムダにしないように、俺は逃げずに――学び続けなければならない。  腐ってる時間なんて一秒もない。  燃えてくる。もっとやってやる。  患者さんにとって最高の旅立ちが出来るように、一流の理学療法士になってやる。  ああ……。  こんなにも熱い感情を抱くのは、初めてだ――。
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