「落としましたよ」

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 一睡もできないまま、朝になった。  ホラー映画などでは、窓をオバケがノックしたり、帰って来た母親の顔が女子高生のものになっていたり、テレビの画面から抜け出してきたりしていたから、とにかく布団を被ってひたすら時間が過ぎることだけを祈っていた。  仕事に行く前の母親が、学校はどうしたのかとドア越しに声を掛けてきたが、「頭が痛いから休む!」と怒鳴ると、特に咎めもせずに出勤していった。  お金さえ渡しておけば、子供の世話は十分だと思っている親だ。今はそれで都合がよかった。  心愛は布団から顔を覗かせると、陽の光に心の底から安堵した。  床を見ると同じ位置にパスケースはあるし、ベッドの上のコートの脇にはペットボトルもそのままある。  でも、太陽の光の下でそれを見ると、夕べあんなに怯えていたのが馬鹿馬鹿しく思えてくる。  ただの、汚れたパスケースと、中身の残ったペットボトルじゃないか。
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