「落としましたよ」

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 『ちゃんと、返したから、もう化けて出るな』という気持ちを頭の端に置きつつ、手を叩いたらいいんだっけ、と二回手を叩き、おでこのあたりで両手をすり合わせる。  たまにさせられる、ただ周りに従うだけの『黙祷』の長さをイメージしてそうしていると、 「あら。……お友達かしら?」  と背後から声を掛けられた。  しゃがんだまま振り返ると、茶色い大きな犬を連れた、年配の女性が心愛を見下ろしていた。  友達……あの、オバケの、ってことか? 「あ……友達、じゃないんだけど……」 「友達じゃないのに手を合わせてあげてたの。立派だわ。優しいのね」  サンバイザーの下で、穏やかな笑顔をする女性に褒められ、悪い気はしなかった。  女性は悲し気な顔で横断歩道のほうに目をやり、 「亡くなった女の子も、きっと優しい子だったんでしょうね……。誰かの落とし物をね、拾って、横断歩道で立ち止まったんですって。そこを、信号無視した車に轢かれてしまって……」
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