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ぜえぜえと喉を鳴らして、ようやく自宅に帰りつく。
玄関に入って鍵をかけ、そのがちゃりという音にほっとする。
大丈夫……大丈夫、だって、返してきたもん。
パスケース、置いてきたもん。
ちゃんと、拝んできたし、もう……。
――――ピンポーン。
静まり返った家の中に、チャイムの音が響いた。
声にならない声が、喉から洩れる。
心愛は、座り込みそうになりながら、玄関ドアを振り返った。
格子の入った、摺りガラスの向こう……黒っぽい上着、黒っぽいスカート、まるでどこかの高校の制服を着た女子高生のような人影が、そこに立っていた。
何か臙脂色のものをその手に持って。
―終―
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