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「お互いに幸せになりましょうね。始さんは私のよ、絶対に渡さないからね」
「大丈夫です。私には大輝さんがいますから、欲しいなんてそんなこと言いません」
「幸予とは違うわよね。それが普通なのよね。熱に魘されて、いいことと悪いことの区別もつかなくなっていたなんて。目を覚まさせてくれてありがとね。じゃあね、バイバイ」
ル―ナさんがにこやかな笑顔で手を振りながら、始さんと仲良く子どもたちのところへ向かった。
生きたくても生きれなかった康介の分も生きて欲しい。生きてさえいれば何度でもやり直しが出来るもの。末長くお幸せに。
「全てが終わるまでまゆに話さないでとミサトさんから口止めされていたんだけど、ミサトさんの従兄弟が巧海くんの本当の父親だそうだ」
「え?」
寝耳に水だったから驚いた。
「彼の敵討ちでもあったみたいだよ。その従兄弟の両親が巧海くんを引き取るそうだ。子どもには罪はない。孫であることは確かだから、自分達が責任を持って育てると。巧海くんの親権を伊藤さんから喪失させるための申し立てを起こしたみたいだよ」
「巧海くんもこれでようやく幸せになれるね」
「身勝手な理由で大人たちに振り回されて、親戚をたらい回しにされて家出して公園にいたところを保護された。笑ったり泣いたり、本来の明るさを取り戻してくれればいいけど……」
彼とそんな会話をしていたら一華と鈴がお腹が空いたと言いながら戻ってきた。
「え?もうお腹空いたの?」
「だって成長期だもん。食べ盛りなの。食べてもすぐにお腹が空くの」
「じゃあ、パパ特製の手巻き寿司でも作ろうか?」
「うん、あとママのカレーも食べたい!」
「カレーも食べるのか。すごい食欲だな」
大輝さんが苦笑いを浮かべた。
「パパとママがご飯を作っている間、ひろくんたちは鈴とお姉ちゃんたちでみてるからお願い」
両手を合わせる鈴。
「うん、分かった。それじゃあ、材料を買ってから帰ろうね」
「うん!」
ひときわ大きな元気な声が上がった。
「パパ、ママ、うちに帰ろ。ひろくんたちも帰ろうね」
一華と鈴がにこにこの笑顔で双子用のベビーカーのなかを覗きながら、よいしょよいしょと押して、大翔は彼の背中に抱っこ紐でおんぶしてもらいすやすやとねんねしていた。
夢にまで見た、幸せな未来がここにある。
大輝さんと子どもたちを守り育ていく。それが私の役目。
康介は私の前ではいつも不機嫌だったけど、 いまは遠い空の向こうで笑っているような気がする。
《了》
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