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上司は紫奈子を鏡の前に立たせる……しかし紫奈子はそんな自分の顔など、見たくはなかった……だって。
(お肌が)
「いまから、ちゃんとした顔の洗い方教えてやっから」と、なにやら、プラスチックの蓋つきのカップのような容器を取った上司は、反対の手で、洗顔フォーム入りの容器を掴み、「肌が荒れたり乾燥するのは、ちゃんと、皮脂を落とせていないことが原因だ。それからきちんとした保湿をすれば、肌は、必ず――蘇る」
「……本当ですか?」たまらず、紫奈子は聞いていた。上司は、絶対に、とは言えんがな、と言いつつも、
「おれだって一時期肌の状態酷かったんだぜ? あの情勢に入った辺りは蒸して結構荒れた。そっから敏感肌用のスキンケアラインも使いつつ、いまの状態を取り戻せた」
紫奈子は、まじまじと上司の顔を見た。……とてもそんな悩みを抱えていたようには思えない……韓国アイドルみたいにつるっつるの、剥き卵みたいな肌をしている……いわゆる陶器肌、というやつ。毛穴なんかまったく見当たらない。
「……野暮な質問でしたらすみませんスルー推奨ですがいったい松岡さんっておいくつなんですか?」
「四十二」
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