カラス、化物、拉致

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カラス、化物、拉致

「カ、カラス!? え? あ、あれ、違う、人間!?」  エリリカの思考回路は、完全に停止、いや、混乱していた。  目の前で羽をばたつかせて、空中に浮遊しているのは、真っ黒な羽に全身を覆われたカラス……ではなく、人間とほぼ同じ形をしたカラスの化物、すなわち、畳一畳分ほどの大きな羽を背中でバタつかせている「カラス人間」だった。  ガッ 「しょ、翔吾!」  エリリカは、その頭上で羽ばたくカラス人間の顔を見ようとした。だが、その時、カラス人間は両手でガッシリと目の前の翔吾の頭を掴んだ。 「ぎゃあっ」  その鋭い爪が、小さな男子高校生の頭に食い込んで、血がにじんだ。 「な、何なの? な、何が一体!?」  エリリカは、その光景を一生、忘れることができなかった。まるで鞍馬天狗の様なカラスの化物が、今まで手をつないでいた同級生の斬の頭を掴んで浮遊していた。  今まで地に着いていた足が、地面から離れて、エリリカの眼の前で、その靴がブラブラとしている。 「ま、待って! 何すんのよっ!」  エリリカは、無意識だった。何も考えずに、脊髄反射的に、思わずその足を掴んだ。 「エ、エリリカ……」  空中で浮かぶ翔吾は、それ以上の声を発することができなかった。 「は、放しなさいよっ! 放せ、化物っ!」  下から足を引っ張るエリリカに対して、そのカラスの化物は、翔吾を掴んで飛び上がろうとしていた。  
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