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何か、気持ち悪い。カラス、嫌い。
エリリカよりも背の低い翔吾は、「あはは」と歯を見せて彼女の顔をチラリtと見た。
「なんじゃ、それ。日照権の問題かよ」
呆れたように吐き捨てると、エリリカはプクッと頬を膨らませた。
「それだけじゃないって。何か…。何か気持ち悪いのよね、あのビル」
そう言うと、エリリカは一気に視線を落として、ガードレールに目をやった。
ーカァ、カァ
「……なんだ、カラスか。それにしても、デカいな」
「なんだじゃないわ。最近、凄く増えた気がするのよね。あのビルができてから」
エリリカの表情は暗い。何かを恐れているかのような表情だった。
「気のせいだろ。元々、この辺り、飲食店が多いから、カラスも多いじゃん」
当然、と言った顔で翔吾は腕組みをした。
ーカァ、カァ、カァ
すると、ガードレール上のカラスが、なぜか二人の方をジロリと見た。
その漆黒の小さな頭から、真っ黒な瞳がまるで観察するかのように眺めていた。
エリリカは「うっ」という声を押し殺して、その下唇を甘く噛んだ。
「ヤダ……。気持ち悪い……。帰ろ」
「あ、ああ。そうだな。オレ、カラス嫌いなんだよな」
「嫌い? なんで?」
「なんかさ。デカくて、嘴が鋭くて。呪われそうじゃね?」
「そう? そういえば、カラスに睨まれて鳴かれたら、呪われるっていうもんね」
ー都会と言えばカラスとハトだね。
二人は、そんな他愛もない日常会話をしながら、その巨大なビルに背を向けた。
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