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逃げ場のない地獄
地獄って、こういうものなのかなー。
エリリカはそう思った。暗く頭上を覆う黒い雲。そこからは、断続的に稲妻が落ちてきていた。そして、背後から迫りくる紅蓮の炎。
「おい、何をボーっとしてんだよ。さっさと逃げようぜ!」
翔吾が、エリリカの袖を引っ張った。
「う、うん。でも、どっちに逃げれば?」
前門の虎後門の狼とは、このことだった。
新宿駅の東口改札は、パニックに陥った無垢の人々が山の様に折り重なって倒れ、老若男女が血を流し、泡を吹いて必死に助けを求めていた。
ー痛い、痛い!
ーどいてくれ、どいてくれ!
ー助けて、死んじゃう、ホントに死んじゃうから!
ータツヤ、タツヤ、どこ!
人間は、人間の下敷きになると四肢が絡まり合って、それぞれが好き勝手に動き、逃れようとするために、それがかえって知恵の輪の如く複雑にほどけなくなってしまう。
斬は、前後左右に脱出口を探そうと、必死に視線を動かした。
「……万事休すか」
その制服姿の翔吾は、思わず弱音を吐いた。
その不甲斐ない一言に、エリリカの武道家魂を著しく刺激した。
「はぁ!? あんた、何情けない事言ってんのよ!」
エリリカの肚の奥底で、何かが覚醒した。
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