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1. 怒り
ルーレットとは本来、無作為なものである。
十七世紀の初めには、既にイタリアでその原型が存在していたとされている。
通常、ホイールと呼ばれる回転盤には、ボールの落ちるポケットが均等に三十七から三十九に区分されてある。
今のカジノでは、定番のゲームだ。
・・・しかしこのルーレットは違った。
* *
安彦は帰り道を急いでいた。
今日は娘、杏奈の六歳の誕生日だ。
川島家では毎年、杏奈の誕生日に安彦がプレゼントを買い、妻の由希子がケーキと部屋の装飾を担当していた。
川島安彦は地方の大学を卒業後、都心に近い中堅の商社に就職した。
配属された経理部の仕事は、最初こそは退屈な部署だと同僚達に愚痴をこぼしていたものだ。
しかし二年目に入ると、仕事にやり甲斐を持ち始め、充実感を感じるようになった。
ある時、営業部の同僚が得意先の女性社員ら数名と飲み会をするという事で、安彦にも誘いがかかった。
息抜きのつもりで、安彦は飲み屋の暖簾をくぐった。
そして、そこに現れた一人が由希子であった。
二人は飲み会で意気投合し、しばらくして付き合い始めた。
そしてその二年後に、二人は結婚した。
翌年には娘の杏奈が生まれ、何もかもが順調な日々を過ごしていた。
しかしここ最近、仕事が立て込んでいた事もあり、まだ杏奈の誕生日プレゼントを買っていなかったのだ。
安彦は、何処かの玩具屋で探そうとうろついていると、見慣れない看板が目に付いた。
腰程の高さの電飾看板に " レトロハウス おもちゃ " と書かれてある。
それに、足元のキャスターが壊れているのか、少し傾いていた。
なんとも古ぼけた看板だ。
看板の上に矢印があり、路地の方を指していた。
「おっ!もしかして掘り出し物があったりして」
と安彦は、早速と路地に入って行った。
すると、シャッターが閉まっている店と店の間に、細長く階段が下に伸びている。
「地下にあるのか」と呟きながらその階段を降りて、突き当たりのドアを押した。
チリリンッ!
ドア鈴が鳴った。
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