迷子と迷子

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「なにつくってるの?」  彼女は小さな目を大きく広げ、ぱちぱちとまばたきした。 「うーんとね、やま?」  彼女の前には確かに、丘のように高く盛り上がった砂があった。その手前が(えぐ)れているから、掘って積み上げたのだろう。  私は手を出すでもなく、じっとその山を見ていた。人が作ったものをむやみにいじってはいけない、という親の教えに従っていた私には、彼女を見守るという発想しかなかった。しかしそれがかえって彼女を戸惑わせたのだろう。「どうしたの?」と心配そうに訊いてきた。 「みてるの、やま」 「ふーん」  それだけ返事をすると、山の根元に指を入れた。今度は穴を掘るつもりらしい。浅くできた穴にさらに手を入れながら、ユカが顔だけはこちらに向けた。 「ユカはね、いま四さいだけどね、のぞみちゃんは何さい?」 「わたしも四さい。おんなじだね!」 「おんなじだね!」  私が声を弾ませると、ユカも同様にぱっと笑顔になった。 「ねえ、のぞみちゃんは、何いろがすき? ユカはピンク!」 「わたしもピンクがすき!」 「おんなじ! ユカ、ピンクのおようふくかってもらったの!」  彼女は砂のついた手を軽くはたくと、自分の服の裾をつまんでぴんと伸ばした。 「わあ、かわいいね。いいなあ」  私はグレーのトレーナーを着ていた。母によると「女の子にピンク」は安直だから嫌だというのだ。  当然のようにピンク色の服に身を包むユカはお嬢様のようで、眩しく見えた。  とはいえ、そんな彼女と好きな色の共通点があったことで、彼女に近づけたと思った。 「ユカちゃんの好きな食べ物はなあに? わたしはあまいおかしがすき」 「ユカも!」  またもやユカは同意した。  大人になってから思うと、幼稚園児の好きな色も好きな食べ物もだいたい似たようなもので、つまりそのときの私たちは知らず知らずのうちに無難な問いに無難な答えを返していただけだった。けれど当時は夢中になっていたし、何より、どんな話題であろうと、遠慮せずに話せる相手はそうそういるものではなかったのだ。
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