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話はさらに進み、甘いお菓子が好きだけれど夕飯前に食べ過ぎると親に叱られることや、夜にトイレに行くのが怖いけれど頑張っていることなど、お互いに色んなことを話した。
「ねえ、ユカちゃんはこのちかくにおうちがあるの?」
私は砂場に座り込んだ。彼女は完成したと思われる山の頂点をぽんぽん叩いた。
「……うん」
「そっか。わたしもね、このまちにすんでるんだよ。でもおかあさんとはぐれちゃった」
言葉にすると、母がいないことが急に現実味を帯びてくる。目頭が痛むのを抑えるように、ぐっと力をこめた。眉をひそめてあの言葉を言い放つ母の姿が浮かぶ。
「……そう、なんだ。じゃあ、ユカとおんなじだね」
「え? ユカちゃんも?」
つまりユカは、ずっとはぐれた状態でこの高架下にいたということだろうか。私が来たときには既に砂山を作っていたから、もう長いこと一人でいるに違いない。
「ユカちゃんも、はぐれちゃったの?」
私が問うと、頷いた彼女がこちらを見た。目には薄く涙の膜が張っているように見えた。
「ユカね、よくまいごになっちゃうの」
彼女の声は震えていた。口をへの字に結ぶ。
「ひとりは、こわいのに。ひとりは、いやなのに……」
彼女の頬を何かが伝った。涙だ。一つだけではない、二つ、三つと、頬をぽろぽろと涙が流れていく。
口を開こうとすると、ユカのほうが先に「のぞみちゃん」と呼んだ。
「のぞみちゃん、どうして、泣いてるの?」
くぐもった声で言われ、固まってしまう。
「あ」
頬を拭うと、確かに濡れていた。青いズボンの膝に濃い染みが二つ落ちる。拭っても拭っても涙は止まらない。ぽた、ぽた、と二つの青い山が濃い色に染まっていく。ついには呼吸までしゃっくりをするようにしかできなくなった。
それはユカも同じようだった。二人して泣いているなんて何だかおかしくて、ふふ、と声が漏れた。私が笑いだすとユカも笑う。薄暗い高架下だというのに、彼女の目には光が差していた。
「望美!」
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