迷子と迷子

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 鋭く空気を裂く声に、私はびくりと肩を震わせた。聞き覚えのある声だ。この声は、もちろん。 「おかあ、さん」  私は立ち上がって柱の陰から出てきた。肩を上下させる母の姿が見えた。  母はなんと言うだろうか。いつも溜め息をつく母のことだから、どれほど叱られるだろう。  拳をぎゅっと握って俯く。かつかつかつ、と靴の音が響いたかと思うと、体を強く抱きしめられた。 「本当に望美、無事だったのね……よかった……」 「おかあさん……?」  私は目をしばたたかせた。  目の前にいるのは本当に母なのだろうか。私が迷子になると嫌そうに顔をしかめる彼女にとって、私はむしろいないほうがいいのではないかと思っていたのに。 「事故にでも、遭ったのかと、思った……本当によかった」  膝立ちになった母が私の背中を抱え込む。母が震えているのがわかる。私にも振動が伝わる。自分がとんでもないことをしたと気づいて、再び鼻の奥が痛んだ。 「ごめんなさい」 「いいの、いいのよ、大丈夫。望美が無事なら、それでいいの。お母さんこそ、ごめんね。望美の手を繋いでいられなくて」  母が背中を撫でる。トラックが一台、けたたましい音を上げながら通り過ぎていった。  立ち上がると、私の手をぎゅっと握った。 「もう、帰ろう」  その手には、絶対に離さない、という意志が感じられて、私は熱くなった目をこすりながら大きく頷いた。  あの子にもお別れの挨拶をしなきゃ、と振り返ったが、そこには誰もいなかった。 「あれ?」  砂場には確かにトンネルが開通した山が残されている。しかしそれは、あの子が来る前から、ずっとそこにあったような気もする。 「どうしたの?」  母は不思議そうに私を見た。が、何となく、大人には秘密にしておこうという気になって、首を横に振った。 「なんでもない」  帰り際に、柱の根元に小さなピンク色の花束が添えられているのが目に入った。公園からは見えない、道路側にあったから、気づかなかったのだろうか。それとも。 「バイバイ」  私はその花束に小さく手を振った。母に気づかれないように。  高架下を抜けると、一面にオレンジ色の空が見えた。 「ねえ、おかあさん」 「ん? 何?」
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