1.素敵な人

17/22
前へ
/102ページ
次へ
「そう・・・・なのか?」 空川さんは、不思議そうな顔をした。 『彼女は俺にいてほしい・・って、俺が必要だ・・って甘えてくれるんだ。美月は俺がいなくても、ひとりで大丈夫だろう?』 そんなふうに言われることが何度かあった。 どうしてだろうって。 私が甘えなかったから? でも甘えるって何? そうやって、どんどん分からなくなっていった・・と話した。 「もう恋愛に向かないなら仕事を頑張ろうと思って。いろいろ挑戦してるうちに、気付いたら40になってた」 諦め顔の私とは対照的に、空川さんは穏やかな表情で話し始めた。 「俺には、そう見えなかったけど」 「え?」 「こんなに素直に甘えてくれるんだ・・って、俺を必要としてくれるのが伝わって、嬉しかった」 「私・・・・が?」 「傘を貸した時から・・・・。クルマの乗り降りに手を貸した時も、助手席で寝ちゃった時も、一緒に過ごした夜も、もちろん今だって、俺にとってはどれもそうだ。これが無意識だっていうなら、俺が落ちた理由も分かるよ」 「空川さん・・・・」 「美月は、中身もちゃんと大人なんだよ。おそらく俺もね。だから、お互いに居心地がいいんだと思う」 なんだか胸がいっぱいになって、言葉が出てこなくなった。 油断すると、一気に涙が込み上げてくるのが分かって、目を伏せて視線を外す。 「美月」 赤信号で停まると、空川さんは私の名前を呼び、肩を引き寄せて軽いキスをした。 ギリギリのところで留まっていた涙が、堪えきれずに頬を伝う。 「まったく・・・・どこが甘え下手なんだよ。こんな顔見たら、何だってしてやりたくなるのに」 こぼれ落ちた涙を、空川さんが指ですくった。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加