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「そう・・・・なのか?」
空川さんは、不思議そうな顔をした。
『彼女は俺にいてほしい・・って、俺が必要だ・・って甘えてくれるんだ。美月は俺がいなくても、ひとりで大丈夫だろう?』
そんなふうに言われることが何度かあった。
どうしてだろうって。
私が甘えなかったから?
でも甘えるって何?
そうやって、どんどん分からなくなっていった・・と話した。
「もう恋愛に向かないなら仕事を頑張ろうと思って。いろいろ挑戦してるうちに、気付いたら40になってた」
諦め顔の私とは対照的に、空川さんは穏やかな表情で話し始めた。
「俺には、そう見えなかったけど」
「え?」
「こんなに素直に甘えてくれるんだ・・って、俺を必要としてくれるのが伝わって、嬉しかった」
「私・・・・が?」
「傘を貸した時から・・・・。クルマの乗り降りに手を貸した時も、助手席で寝ちゃった時も、一緒に過ごした夜も、もちろん今だって、俺にとってはどれもそうだ。これが無意識だっていうなら、俺が落ちた理由も分かるよ」
「空川さん・・・・」
「美月は、中身もちゃんと大人なんだよ。おそらく俺もね。だから、お互いに居心地がいいんだと思う」
なんだか胸がいっぱいになって、言葉が出てこなくなった。
油断すると、一気に涙が込み上げてくるのが分かって、目を伏せて視線を外す。
「美月」
赤信号で停まると、空川さんは私の名前を呼び、肩を引き寄せて軽いキスをした。
ギリギリのところで留まっていた涙が、堪えきれずに頬を伝う。
「まったく・・・・どこが甘え下手なんだよ。こんな顔見たら、何だってしてやりたくなるのに」
こぼれ落ちた涙を、空川さんが指ですくった。
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