476人が本棚に入れています
本棚に追加
「知っててくれたんですね。来週からよろしく」
来週着任予定の人事本部長だと、名前だけは常務に聞いていた。
でも、まさかこんなところで会うなんて・・・・。
「はい、折りたたみ傘。それとも、こっちの長い傘に一緒に入りますか?」
「いえ、それは・・。折りたたみ傘、お借りします」
私は折りたたみ傘を受け取りつつ、もう一度、未来の上司と目を合わせた。
「本部長にしちゃ随分と若いな・・って、永田さんの顔に書いてある」
「そ、そんなこと・・・・」
「同い歳らしいから、仲良くやろうよ。じゃ、また来週」
そう言うと、先に店を出て駅に向かって歩いて行った。
私も店を出て、借りた傘を差しながら離れていく後ろ姿を眺める。
まさか、同じ年齢だとは思わなかった。
他部門の本部長は、そのほとんどがアラフィフだったから。
空川 拓真(たくま)。
光沢のある生地で仕立てられた、高級感のあるスーツ。
主張はしないけれど、見間違えようのないハイブランドのビジネスバッグと靴。
その出立ちに違わぬ、高い役職。
顔は濃過ぎない涼やかな印象で、声はあまり高くなく耳に残る音で・・。
どうしてだろう。
一瞬で思い出せる自分に驚く。
まさか、一目惚れでもしたの・・・・?
ふふっ、と他人事のように小さく笑う。
でもどうせ、既婚者か彼女持ち。
いつも通りアタマを整理をして、借りた傘とともにオフィスに戻った。
最初のコメントを投稿しよう!