1.素敵な人

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「知っててくれたんですね。来週からよろしく」 来週着任予定の人事本部長だと、名前だけは常務に聞いていた。 でも、まさかこんなところで会うなんて・・・・。 「はい、折りたたみ傘。それとも、こっちの長い傘に一緒に入りますか?」 「いえ、それは・・。折りたたみ傘、お借りします」 私は折りたたみ傘を受け取りつつ、もう一度、未来の上司と目を合わせた。 「本部長にしちゃ随分と若いな・・って、永田さんの顔に書いてある」 「そ、そんなこと・・・・」 「同い歳らしいから、仲良くやろうよ。じゃ、また来週」 そう言うと、先に店を出て駅に向かって歩いて行った。 私も店を出て、借りた傘を差しながら離れていく後ろ姿を眺める。 まさか、同じ年齢だとは思わなかった。 他部門の本部長は、そのほとんどがアラフィフだったから。 空川 拓真(たくま)。 光沢のある生地で仕立てられた、高級感のあるスーツ。 主張はしないけれど、見間違えようのないハイブランドのビジネスバッグと靴。 その出立ちに違わぬ、高い役職。 顔は濃過ぎない涼やかな印象で、声はあまり高くなく耳に残る音で・・。 どうしてだろう。 一瞬で思い出せる自分に驚く。 まさか、一目惚れでもしたの・・・・? ふふっ、と他人事のように小さく笑う。 でもどうせ、既婚者か彼女持ち。 いつも通りアタマを整理をして、借りた傘とともにオフィスに戻った。
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