1.素敵な人

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「課長って、もしかして『甘える = 可愛がってもらう』だと思ってたりしません?」 「・・う・・思ってたりするかも」 「難しくしてるの、そのせいじゃないですかね〜」 「それ、どういうこと?」 「だってほら、ここ見てくださいよ」 相澤さんは、ささっと操作したスマートフォンの画面を見せてくれた。 そこには、『甘える』の意味がいくつか並んで書いてある。 「課長にしっくり来るのは、この『相手の好意に遠慮なく寄りかかる』じゃないですか? こっちの・・『可愛がってもらおうとして〜』っていうの、ピンと来ないでしょ?」 「・・・・来ない」 「さっきの傘の話なんて、まさに『相手の好意に遠慮なく寄りかかる』かなーって。意識させずに課長を甘えさせるなんて、罪な男性!」 また会えるといいですね〜、と言いながら、彼女はミーティングルームに入っていった。 私も自分のデスクに戻ってノートパソコンを起動させたものの、今の相澤さんとの会話を思い返す。 勘違い・・ってわけじゃないけど、確かに『甘える』っていうことに、思い込みみたいなものはあったかもしれない。 もっと甘え上手だったら。 もっと可愛がられ上手だったら。 何度もそう思ってきたけれど。 そんなふうに考えなくても、良かったのかな・・。 ふと、デスクの脇に立て掛けた傘が目に入った。 また、会いたい。 来週になれば上司として着任し、会えることは分かっているけれど、そうじゃなくて。 そうじゃなくて・・・・。 『意識させずに課長を甘えさせるなんて、罪な男性!』 それが本当なら。 私が甘えられた人に、そして私を甘えさせた人に、もう一度会いたいと思った。
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