1.素敵な人

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常務の前では平静を装っていたけれど・・。 まさかの展開に、心ここに在らずだった。 来週まで会わないはずの人。 でも、会いたいと思っていた人。 仕事とはいえ・・ふたりで外出なんて。 エレベーターに乗り1階のボタンを押そうとすると、私より先に、空川さんが地下1階のボタンを押した。 「永田さん、もし嫌じゃなければ、俺の車で行かない?」 「え?」 「戻ってくる必要も無くなったし、今の時間なら空いてるから、電車で行くより早い」 「でも・・・・」 「でも?」 「あ、いえ・・・・」 戸惑った。 嫌なわけじゃなかった。 だけど、私の思考がブレーキをかけた。 「俺、もしかして嫌われてる?」 空川さんが、心配そうに私の顔をのぞき込む。 「あ・・違うんです。家族以外の男性の運転て、実は初めてで。なんだか緊張しちゃって・・」 嘘じゃない。初めてなのは本当。 もっと言えば、空川さんとふたりの空間だということが、更に私を緊張させる。 「そう・・・・なんだ。そんなに運転が下手じゃないと思うけど、どうしようかな。考えてみたら、俺も身内以外を乗せるのは初めだった」 それを聞いて、奥さまだと思った。 だとしたら余計に、私なんかを乗せて面倒なことになっても困る。 「奥さまに怒られちゃいますよ。私、電車で行くので、また現地で」 エレベーターがちょうど1階で止まり、ドアに向かって一歩踏み出すと、後ろから少し慌てたような空川さんの声がした。 「俺、結婚してない」 「え?」 「ごめん、気が付かなくて。俺は良くても永田さんがダメなのか。ご主人に怒られるよね」 「えっ」 それを聞いて、今度は私が慌てた。 「私・・私も結婚してません」 「え?」 そんなやりとりの間にエレベーターの扉が閉まり、結局地下1階まで来てしまった。 「俺たち、何やってるんだろうね」 苦笑いする空川さんを見て、つられて私も微笑んだ。
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