1.素敵な人

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「永田さん、下の名前は? 常務に見せてもらった資料、写真は付いてたんだけどフルネームが書かれてなくて」 「美月(みづき)です。美しい、月」 「綺麗な名前だね」 「そう・・ですか?」 「うん」 私が覚えていたのは、ここまでで。 「・・・・さん、永田さん。・・・・美月、起きて」 名前を呼ぶ声がして、ゆっくりと瞼を持ち上げた。 しまった!! すぐ目の前にいた空川さんにも驚いたけれど。 あろうことか・・横浜オフィスに着くまでの間、眠ってしまった自分にショックを受けた。 背中を冷や汗が伝う。 「申し訳ありません・・・・」 俯くしかなかった私に、空川さんは穏やかな声で言った。 「そんなに乗り心地良かった? 俺としては、もう少し寝顔を見ていたいんだけど、そろそろ行かないと怪しまれそうだから」 そう言われて腕時計に視線を落とすと、都心のオフィスを出てから1時間経っていた。 「嘘・・・・もう随分前に着いてましたよね・・」 「そうだな・・20分くらい前、かな」 「起こしてくだされば良かったのに・・・・」 「だって、可愛い顔で寝てたから」 うっ、と言葉に詰まる。 眠ってしまった私が悪いのだし、言い訳をしても無駄だと諦めた。 「行きましょう。ご案内します」 気を取り直して助手席から降りようとした私の右腕を、空川さんがつかむ。 「降りれないでしょ。ちょっと待ってて」 運転席から助手席に回り、私の腕を支えて降ろしてくれた。 今日、タイトスカートにハイヒールじゃなかったら、こういうのも無かったんだよね・・・・。 相澤さんの言葉を、ふと思い出す。 『意識させずに課長を甘えさせるなんて、罪な男性!』 意識はしている。 しているけれど、どれも想定の上を行くのだから、制御しようがないのだ。 「ふふっ」 「ん? どうした?」 「諦めの笑いです。さ、行きましょう」 私たちはオフィスに向かった。
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