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遭難
「え⁉️ ちょっと待って、みゆ!
開けてくれ!
この冷蔵庫は中からは開かないんだよ!」
親から譲り受けた旧式冷蔵庫の中で、僕は焦って扉を叩いたが、みゆは笑い声で言った。
「ちからこぶで、ばーん!ってしてよ!」
「無理なんだ、駄目なんだ、開けてくれ!
みゆ!」
返事はなかった。
「みゆ!」
遠くから、
「おかあさんのおむかえするー。」
という声がして、それっきり静まり返った。
お母さんのお迎え、つまり、玄関の前に座って日向ぼっこだ。
「み、みゆ!
そんなことしてる場合じゃない!
戻ってきて!」
声が届くはずもない。
「ヤバい……。」
僕の体は早くも震え出した。
すると、ケツの下に何かあった。
引っ張り出してみると、袋入りの一口チョコレートのようだ。
「助かった!」
遭難対策といえばチョコレートだ。
そういえば、マヨネーズで助かったという遭難者の話も聞いたことがあった。
僕は真っ暗な庫内を手探りした。
「あった!」
もしかしたらケチャップかも知れないが、それらしきチューブを発見した。
カロリー源を確保した僕は、水分も探した。
ペットボトルが数本あった。
だが、うかつには飲めない。ここは冷蔵庫内だ。ペットボトルは冷えきっている。飲めば確実に体温を奪われる。
僕はとりあえずチョコレートを一粒口に入れて、妻の早い帰宅を祈った。
カロリー源も水分も確保はしたが、チョコレートもマヨネーズも、喉の渇きを生む。喉が渇いても、あるのはキンキンに冷えたドリンクだけだ。むやみには食べられない。
「美佐子……。
頼む、早く帰ってきてくれ!」
僕は切実に祈った。
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