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「僕のどこが堕落していると言うんですか?」
「なんじゃこの部屋は? 汚れ放題ではないか」
「い、いやぁ、まあそれは……」
確かに物が入り乱れている。読みかけの雑誌がそのへんに置かれ、上着は脱ぎっぱなしで放ってあった。今日が休みなので昨日の夜ビールを飲んだのだが、その空き缶やスナックの袋もテーブルに置きっぱなしで、食べかすがフロアに落ちてもいる。
「さっさとかたづけて掃除をしやれ!」
ご先祖様が刀に手をかけながら怒鳴る。
充は慌てて掃除を始めた。片付けるだけではなく、フロアの水拭きまでさせられてしまう。しかも、腰をちゃんと入れて拭けと姿勢までうるさい。たったそれだけでへとへとになってしまった。
更にご先祖様は、風呂場やキッチン、玄関まで念入りに掃除するように命令した。
たぶん戦国時代の人だろうが、マンションの造りなどもよく知っていた。幽霊とはそういうものなのだろうか?
「なにをさぼとるか。しかと手をうごかしやれ!」
「もう充分きれいになったじゃないですか」
「黙れ。すみのほうに埃があるではござらぬか。それに、そのくらいにて疲らるるとは、御身がなまとはる証拠じゃ。終わったら鍛錬するでござるからな」
「そんなぁ……」
情けない顔で情けない声を出す充。
「全部貴様のためじゃ」
そう言いながらも、ご先祖様はベッドに横になりテレビを観ていた。バラエティ番組で、たまに笑い声をあげている。
こいつ、貴様のためとか言いながら、なんか楽しんでる? もしかして、毒親ならぬ毒先祖じゃないか?
ぶつぶつ言いながら、キッチンの隅へと行って掃除をしているふりをした。
このままじゃまずい。鍛錬とか言って、何をさせられるかわからない。何とかあのご先祖幽霊を追い出すか成仏させるかしないと……。
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