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「詳しいことは会ってから話す。もう近くの駅まで来てるから、すぐ行くね」
「待って。うちに来るのはマズイよ」
何しろ毒先祖がいる。恋人を招き入れたとなると、何をされるかわからない。
「え? なんでマズイの? まさか……」
妙な勘ぐりをしているらしい。充は小さい声ながらも強く否定する。
「違う違うっ! こっちもちょっと大変なんだ。駅前の公園で会おう。すぐ行くから」
そう言って電話を切る。そして……。
もうこうなったら効き目を考えている暇はない。充は冷蔵庫から缶ビールを1本取り出し、それを思い切り何度も振る。そしてリビングへ向かった。
「あの、ご先祖様」
「なんだ?」
「これでも飲んでおくつろぎください」
テーブルに缶ビールを置き、ご先祖様に向けてプルトップを開ける。
一気にプシューッとビールが吹き出した。
「ぎゃわぁぁっ!」
毒先祖が叫びながら身を仰け反らせる。
その瞬間に充は走り出した。玄関ドアを開けたところで、激しい怒鳴り声が響く。
「おのれ、またまがい物じゃないか。待てぃ! もうゆるさんぞ」
やっぱりビールではダメらしい。アルコール濃度が足りないのか?
とにかく走って逃げる。幽霊がどういう移動手段をとるのかわからないが、とりあえず自分の姿を見せないくらい離れれば、と考える。
行き交う人々が怪訝な顔をするが、かまっていられなかった。
公園の近くまで来た。振り向いて見ると、毒先祖の姿はない。もっとも、瞬間移動でもできるなら意味はないが……。
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