らくガキちょう

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 下川商店は小学校のそばにある。自転車を止め、店内に入った。入って直ぐにあるのは、くじやおかしの台だ。七海がいたら、ここにかぶりつきになる。 「いらっしゃい」  一人で店番をしているおばぁちゃんに声をかけられた。ぼくはかるく頭を下げる。  らくがきちょうは、左手おくのたなにあった。平づみで、学校でつかうノートと同じところにおいてある。 「あ〜っ。これこれ」  と、らくがきちょうを手にとろうとして――やめる。なぜか、手が止まってしまった。  あれっ? なんで?  らくがきちょうはうっすらとほこりがしていたけれど、そんな理由じゃない。  どうして手が止まったのかな?  う〜ん?  なんとなく気になって、下の方のらくがきちょうをとろうとした。 「どれでも同じだよ」  しっかり見られていたらしく、おばぁちゃんにわらわれた。 「えっ? あ、うん……」  あわてて、一番上のらくがきちょうをとる。おばぁちゃんのところまで持って行く。 「ありがとうね。はい、どうぞ」  なにごともなかったかのように、おばぁちゃんがらくがきちょうにテープをはってわたしてくれる。ぼくはポケットから買い物ぶくろをとり出してらくがきちょうを入れた。  代金は――代金は、夏野書店のらくがきちょうと同じで百十円だった。急に十円高くしたのか、それともぼくのかんちがいだったのか。とにかく、父さんに言ってもらっていたとおりのねだんだった。  おだちん計画はしっぱいした。でも、よかったのかもしれない。かってに十円をおだちんにすることに、後ろめたい気持ちもあったんだ。自転車にのっている間、引っかかっていた。 「はい。アメあげる」  と、おばぁちゃんがあめ玉をくれた。白いつつみ紙のミルクキャンディ。一コいくらって感じのじゃなくて、ふくろ売りされているやつのひとつぶだ。 「ありがとう」 「はい。またいらっしゃい」  おばぁちゃんに手をふられ、ぼくは下川商店を出た。  帰り道、公園の前を通る。女の子が一人、ブランコであそんでいるのが目に入った。赤いふくを着た、同い年ぐらいの女の子だった。  見かけない子だ。よそからあそびにきた子かな? ――と、思いながら公園を通りすぎる。  すると。 「気をつけてねぇっ」  せなかに声をあびた。あびた――と思う。  えっ。今の、ぼくにむけて言ったよね? ブランコであそんでいた、あの子が言ったの?  自転車を止め、ふりかえる。公園の方を見た。ブランコをこいでいた女の子がこちらをむいていて、かるく手を上げる。 「……どういうこと?」  わからない。どうしたものかと考えていると、なぜだか妹の七海のことが思い出された。  ――七海。七海、か。  もしも、七海がついてきていて、この場にいたらどうだろう。行ってみようよ、って言い出すにちがいない。  よし。行ってみよう。  自転車をもどし、公園の入り口に止める。女の子の方に足をむけた。
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