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きゅうりぷらぷら
ゴールデンウィークも、もうおわり――という日だった。
『じゃぁね、直太。父さんは川を見てくるから、後はたのんだよ。自分のペースでいいからね』
言いおいて、父さんは出かけてしまった。
「まったくもう。父さんときたら」
畑できゅうりのなえをうえながら、ぐちがこぼれた。
ビニールポットで二十コだから、そんなに多くはないけれど。
でもね。でもねぇ。
父さんは、青竹とひもとネットでたなを作ると、さっさとつりに行ってしまった。
……うん。
川を見てくるとか言ってたけれど、ぜったいにつりだよね?
朝早くから山に入って竹を切って、はりきってるな、って思ったらこれだ。
「自分でそだてたなえなんだから、自分でうえればいいのに。ま、いいんだけど。……やれやれ。ゴールデンウィークなのにさ。南ちゃんは、かぞくで水ぞくかんに行く、って言ってたのにさ」
南ちゃんというのは、近くに住む同い年の女の子だ。さいきんは、あんまりいっしょにあそばなくなっていたけれど。学校では、名字でよぶようになっていたけれど。うん。話は、する。
「えぇと。ひりょうをまぜて、なえをうえて、水をやって、っと。……風よけのおおいまでしていたら、午前中いっぱいかかるかも。ま、いいんだけど」
うえているのはあまりもののなえで、できたきゅうりはうちで食べるぶんになる。
――の、だけれど。
じつは、いいきゅうりができたら、無人販売所に出してもらえることになっている。この畑のやさいは売りものにしないと父さんがきめたけれど、食べ切れないぶんがもったいないからね。道の駅や直売所というわけにはいかないけれど、無人販売所には出してもいいって。一ふくろ百円で、売れたぶんは、そのままぼくのおこづかいにしてもいいって。
だから、やりがいがないわけじゃない。
もちろん、父さん母さんや妹の七海が食べてくれるだけでもうれしいんだけどね。
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